かつて敗れていったツンデレ系サブヒロインに捧ぐ

(~‾⌣‾)~砂と波の間でこそ 僕達はつどいあい 幻の傷をなめあう 永遠に 博内和代『SEA SIDE SOUVENIR』~(‾⌣‾~)

『心が叫びたがってるんだ。』感想・視聴二回目

『心が叫びたがってるんだ。』二回目を観てきました…つらい…つらい。完全にネタバレの小文なので、注意です。

 

 初見の時の僕は、この作品のどの登場人物の立場にも立たず、観客としての視点から作品を観ていました。その結果、「おとなしい文化系女子が野球部員に告白される」という衝撃的なラストの印象ばかりが脳裏に焼き付くことになったのです。

・一回目視聴の感想

wak.hatenadiary.jp

 二回目の視聴の際は少し余裕があったので、玉子によってお喋りが出来ないように呪われた少女・成瀬順に近い立場で観たと思います。それで感じたんですが…成瀬が王子様と感じていた音楽青年の坂上の言動、酷すぎじゃないですか…。

 坂上は、お喋りができない成瀬がミュージカルを頑張る姿やお腹を痛めながら本音で叫ぶ姿を見て、彼女を応援したくなります。でも、彼が成瀬に感じているのは、応援したいという気持ちだけで、恋愛感情を持っているわけではありません。彼が恋愛の意味で好意を抱いているのは、中学時代の元カノの仁藤です。

 成瀬はミュージカルの曲を坂上につけてもらう過程で、彼に恋心を抱くようになります。でも、それは成瀬だけの勘違いが原因なんじゃない。坂上が好意を持っている仁藤もまた、彼からの好意にミュージカル前日になるまで気づかず、坂上は成瀬を好きだと勘違いし続けます。坂上の本音が周囲に分かりにくいのです。

「仁藤とまたこういう風に(親しく)話せるようになったのも、成瀬のおかげかもな…」とか、初見時は全く気づかなかったけど、本当に最低の台詞ですよ…。成瀬が完全に、仁藤と仲良くするための道具として使われてるじゃないですか。お城の形をしたラブホテルに閉じこもる成瀬を迎えに行った時に、「みんなが待ってるんだ!」と執拗に言うとかさ…。そこは「俺が待ってる」と言ってあげなよ!成瀬視点では、王子様だろ!

 

 でも、成瀬は坂上が自分を恋愛の意味で好んでおらず、単に応援しているだけだと知っても、それでも彼が好きだし、許してしまってると思うんですよね。お城のホテルの中で本音で坂上を罵倒し続けるシーンの末、罵倒の言葉がもう出て来なくなったから。

 作品の中で成瀬が坂上を罵倒しつくし、もう言葉が出て来なくなると、作品の外の観客に過ぎない僕としても、これ以上、坂上を罵倒できないんですよね。結局は、成瀬と坂上の問題だから。そこが切ないなと思いました。

 

 あと、野球部員の田崎も、初見時は成瀬への告白フラグが見えていないように感じて、ラストの告白に衝撃を受けましたが、二回目は彼こそが成瀬に相応しいなと思いました。

 恐らく、音楽室で田崎が成瀬に謝罪し、ミュージカルを手伝いたいと申し出た時、成瀬の歓喜を爆発させた表情を見て、好きになってしまったんだと思います。学校の帰り道、田崎が成瀬と一緒に帰りたいから電車に乗らず、「俺と一緒にいるの、嫌か?」と気遣うシーンも良かった…。あと、ミュージカル当日に成瀬が行方不明になった際に、坂上に成瀬を探してこいと鼓舞するシーンは切ないですよ…。あれは成瀬にとっての王子様は、自分ではなく坂上だと知った上で、迎えに行かせてるわけじゃないですか。

 映画前半では、田崎は肘のケガのせいで苛立ちと捻くれを爆発させていますが、本当はいかつい見た目以上に繊細で気配りのできる人間なんだと思います。

 

 初見と二回目では、それぞれ観客と成瀬の立場でこの作品を見ましたが、坂上や仁藤や田崎の立場で見返してみると、また新たな発見があるのかもしれません。そういう意味で、複数回の視聴に耐えうる、青春アニメの傑作だと思います。